【2026-⑥】その解雇、待った! 実は難しい「試用期間中の解雇」
現代ではどの業種の会社でも、「試用期間」という期間が設定されていると思います。
新たに雇用した従業員が、問題なく会社に勤務できるのか。会社がその適性を確かめるための期間とされています。
一般的には3か月、長くて6か月でしょうか。
期間の長さはいずれにしても、雇用契約書や就業規則には試用期間の条項があると思います。ありますよね?
この「試用期間」。
法律にもよく似た言葉が使われた規定があって、これが原因となる労働問題がよく発生しています。
- 試用期間の何が問題につながるのか。
- なぜそのような問題が生じてしまうのか。
- どうすれば回避できるのか
今回は、たびたび発生して労使紛争が深刻化する「試用期間中の解雇」について考えていきます。
目次
1 「自由」という誤解
2 順調に卒業させる
3 まとめ
1 「自由」という誤解
雇用契約書や会社の就業規則で目にする「試用期間」という言葉。
労働基準法には「試の使用期間」というよく似た言葉が登場します(第21条)。
これは、14日以内の試みの使用期間中の者に対しては解雇予告と解雇予告手当の規定を適用しない、という定めです。
言いかえると、「解雇予告なしで解雇できる」という内容なのですが。
この除外規定が誤解の元となって、「解雇権の濫用」という問題を引き起こしている現状をご存じでしょうか。
「試みの使用期間」
=「試用期間」
↓
14日以内の試用期間中は、
解雇に予告が必要ない
↓
14日以内の試用期間中なら、
自由に解雇できる!
労働基準法第21条の規定を、このように解釈している人は多いのではないでしょうか。
条文を読めばわかることですが、この規定で義務が生じないのは解雇予告と解雇予告手当で、解雇の制限が免除されるわけではありません。
もっと大きな誤解により、「会社で設定している試用期間中は制限なしで解雇できる」と考えている例も、あるかもしれません。
もし今、そのように考えている経営者がいたら、今日から考えを改めてください。
とんでもない騒動に巻き込まれてしまいます。
会社が一方的に雇用を解除する「解雇」は、法律で厳しく制限されています。
- 労働基準法第19条
- 労働契約法第16条など
これらの法律が定める解雇の要件をすべて満たすのは容易なことではなく、当然、試用期間中だからと言って自由に雇用を解くことは許されないものと思ってください。
これを踏み破ると、「解雇権の濫用」になります。
試用期間は、新入社員の適性を確かめるための単なるお試し期間ではありません。
「この従業員には能力がない」などと安易に評価して、すぐに解雇を検討してはいけませんよ。
2 順調に卒業させる
「能力がなければ解雇」といきたいが
従業員に仕事を指示し、求める成果を出してもらうことが会社の事業であり、経営者の役目です。
それであれば、「能力がなければ解雇」という思考になるのは自然なこと。
経営者は、従業員になった人には会社が求める能力を身に付けてもらいたいのです。
しかし、試用期間中に、新たに雇用した全員が必要な技量を身に付けるとは限りません。
知識・技能には個人差はあります。本人の意に反してなかなか上達できないことだってあるでしょう。
試用期間中の教育で、雇用契約で約束した労務を提供できない。
それを理由に雇用契約を解除することが非常に難しいことなのは前述の通り。
そこで、会社は解雇以外の対処を考えることになります。
- 試用期間の延長
- さらなる教育指導
- 配置の転換
「能力不足による解雇」を検討するのは、これらを徹底した後です。
これらの対処を経ずにいきなり解雇したら、辞めさせられた本人だって驚き、納得できません。
解雇は、本人にとって最悪の結果であり、会社にとって最後の手段です。
試用期間中の解雇を避けるには
順調に技量を高めて、穏便に試用期間を乗り切って成長してくれる。
そうすれば会社は解雇を検討することなく、その人は会社の一員として働くことができます。
多くの人は、特別なことをしなくても、順調に試用期間を終えて「本登用」に至るでしょう。
そこまで至らない人が一部いるのが現実ですが、それも回避して、なるべく全員を順調に卒業させる方法はないものか。
人手不足の時代ですから、一人も落伍してほしくないですよね。
私の見解ですが、残念ながらそれに対する即効薬はありません。
地道で慎重な努力によって落伍者を出さない取り組みが、会社が取り得る今のところの対処です。
会社はまず、自社が設定している試用期間がどのような制度なのか、正しく理解しましょう。
会社側が正しい認識と明確な基準を持っていないと、試用期間の運用が曖昧になって、適切な指導ができなかったり、安易な解雇に踏み切ることになってしまいます。
以下のことはしっかりと認識して、雇用契約書と就業規則にも記載しましょう。
- 試用期間の趣旨・目的と期間の長さ
- 試用期間を卒業する基準
- 試用期間を延長する基準
- 試用期間を卒業する基準に達しなかった場合の処置
もちろんこれらのことは、これから試用期間に入る従業員に対して丁寧に説明すること。
会社と従業員が同じ認識をもって取り組むことで、教育は効果的に進み、試用期間を無事に卒業することができます。
従業員側も試用期間を自覚する。
これが落伍者を出さないための地道な取り組みです。
3 まとめ
試用期間は、難しい表現では「解雇権留保付労働契約」ともいわれます。
字面から「会社がいつでも解雇できる状態」とも読めますね。
ですが実際は、これまで説明してきたとおり、会社が自由に解雇できる期間ではありません。
「期間満了による退職」とは違い、制限の厳しさは通常の解雇と同等なのです。
- 「試用期間」はその人の適性を測るための期間であり、単なるお試し期間ではない。
- 試用期間中の解雇は非常に難しい。安易に踏み切ってはいけない。
- 労働基準法第21条の規定と混同・誤認識しないように注意。
- 会社と従業員が「試用期間とは何か」を正しく認識し、一緒になって乗り切る。
これらを正しく理解せず、誤った解釈により安易な解雇に踏み切れば、労働問題、労使紛争に発展し、「本件解雇は不当か、正当か」を争うことになります。
「試用期間中の解雇」とは、そのような争いに発展しやすい要素を含んでいることをよく認識して、確実に回避してください。
会社の理解と努力次第で避けることができる問題ですから。
