【2026-⑩】経営の難題「安全配慮義務」 その正体と限界を知る
「安全配慮義務」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
私は労働組合の執行委員だったので、労使協議や安全衛生委員会でこの言葉に接する機会は多くありました。
あなたはいかがでしょう?
普通に会社で働いていれば、あまり関わることがない言葉でしょうか。
安全配慮義務とは、労働契約法に定められている、使用者(会社)が負う義務のひとつ。
会社は、雇用している労働者(従業員)が安全に、支障なく仕事ができるよう、職場の環境や状況を整理する義務がある、という内容です。
社内で労働災害が発生したとき、「会社が安全配慮義務を果たしていたか」は争点のひとつになります。
これの行方により、災害後の原因究明や是正対策の方向がある程度決まってくるからです。
「会社が安全配慮義務を果たしていれば、労働災害は起きなくなる」
この考え方は正しいとも言えて、実現困難な理想とも言えるでしょう。
現実にはご存じのように、会社がいくら社内の安全に気を配っていても、労働災害は発生してしまいます。
仕事上の災害は、通常では考えられない原因で発生することが多く、会社がいくら予防に努めていてもその全てを防ぎきることは困難なのです。
労働災害が起きて従業員が負傷してしまったら。
その代償が大きいことは、私が語るまでもありませんね。
事業への直接的な影響はもちろん、場合によっては労災保険料の負担増。
そして悪くすると、被災した従業員側が、会社の責任を追及するかもしれません。
「私が仕事で負傷したのは、会社が安全配慮義務を果たしていなかったからだ!!」
今回は、会社にとって扱いが非常に難しい安全配慮義務について、その限界と上手な付き合い方を私なりの視点で考えてみます。
- 会社は、社内の安全に対してどこまで配慮すればよいのか。
- 会社内は広大で、すべての安全配慮は難しい。
- 安全配慮の責任があるのは会社だけ?
労働災害が連発して頭を抱えている経営者のあなた。
または、仕事での災害に苦しんだことがあるあなた。
この記事を読んで、明日からの安全な職場づくりの役に立ててください。
目次
1 何を、どこまで
2 誰が、どのくらい
3 まとめ
1 何を、どこまで
あらためて、「安全配慮義務」という言葉、概念について根拠を確認します。
これは、労働契約法第5条に定められています。
労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働する ことができるよう、必要な配慮をするものとする。
もともとはいくつかの判例が源泉なのですが、詳しい由来や経緯はここでは省きます。
いずれの判例でも共通しているのは、「安全配慮義務は、労働契約上の付随義務として、必要な配慮をするもの」という考え方です。
もう少し具体的には、以下の内容が含まれます。
- 労働契約や就業規則に特段の根拠規定がなくても効果を持つ。
- 内容は一律に定まるものではなく、業務の具体的状況に応じて設定するべき。
- 疲労や心理的負荷の蓄積にも注意を払う。
- 疲労や心理的負荷の蓄積は、労働者側からの申告がない場合が多いので、使用者側は特に注意して配慮に努めること。
いかがでしょう。意外に幅広いと感じたでしょうか。
「疲労や心理的負荷」も配慮するべき対象なので、職場の衛生環境も良好に維持しなければなりません。
長時間労働やハラスメントのない職場を目指すことになります。
「規定がなくても義務はある」という概念は、もしかしたら経営者にとっては酷でしょうか。
これは転じると、「労働災害が発生したときに争点になる」という、後発的な義務になり得るからです。
後出しで責任を追及される格好になるので、安全配慮義務を難しくしている一因とも言えます。
明確な基準がないので、「とにかくすべて」が、安全配慮義務の対象と考えましょう。
人を雇い仕事を指示する、または会社に入社して業務に従事するときには、上記のようなことは当たり前に考えることでしょう。
もしかしたら考えるまでもなく、無意識に取り込んだうえで仕事に当たっているかもしれません。
「当たり前すぎて、今まで意識したことがなかった」
あなたが今、そんな現状を思い当ったら、上記の文章をもう一度読んで、現状と比較してください。
現状でできていることと、できていないことは、文章で読むと思い浮かぶことがありますよ。
そうして考え始めることが、安全な職場づくりの第一歩です。
2 誰が、どのくらい
安全に仕事ができるように、必要な配慮をする。
これが安全配慮義務の意味であることは前述しました。
多くの職場では、これが実践できていることと思います。
この概念の元になった判例や、その後に発出された通達では、この配慮義務は使用者が負うことが述べられています。
「人を雇って仕事を命じる者として、働く人の安全を確保する責任がある」というわけです。
私の考えでは、この概念のままでは効果半減です。
この考えに硬直するからこそ、会社は対処に苦しみ、配慮義務に限界を感じ、十分な対策を打てないまま従業員を労働災害から守り切れずにいる。
このように私は思っています。
安全配慮義務の元になった判例のひとつに、私が共感する一節があります。
「安全配慮義務は、・・・当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上義務として一般的に認められるべきものである」(陸上自衛隊事件)
上記のうち「当事者」とは、労働契約を結んだ会社と従業員の関係のこと。
その「双方が相手方に対して」という部分に、私は大いに共感しています。
安全配慮義務は、会社が従業員に対して負う責任というのが、一般的な理解です。
けれど実際はそうではなく、「会社と従業員の両者が責任をもって負うべき義務」と考えるのがより自然ではないでしょうか。
精神障害も含めた業務上の災害は、発生すれば誰にとっても悪い結果しかもたらしません。
労働災害が生じることを望む人はいないはずです。
会社と従業員の双方が被害者となり、双方が損害を被ります。
ならば、それを回避するための実践の責任は、双方が負うべきだと思うのです。
安全に対して何ら責任感のない従業員が働く職場では、あまりにも危険すぎます。
- 「安全配慮義務」という概念に苦慮し、社内の安全な職場づくりに行き詰っている。
- 発生した労働災害の是正対策が、「社内発表のための対策」に終始していて効果を望めない。
そんな現状に直面して万策尽きているときは一度、「従業員にもこの義務を負ってもらう」という視点で考えてみましょう。
「会社が従業員の安全を確保する」という視点から「従業員自らが安全を確保する」という視点で考えると、違った取り組みが見えてきませんか?
会社から指示を受けて、実際に仕事に従事するのは働く従業員です。
自らで安全に働ける環境を作り上げることに責任を持つことは自然な帰結といえます。
また、そうすることで、会社が把握しきれない社内の広域にまで安全を波及伝播させることも期待できます。
経営者だけで社内の隅々まで配慮するのは至難。
全員で手分けして、社内の安全確保の手を伸ばしましょう。
ぜひ、そのような視点も取り入れて、安全な職場づくりに取り組んでください。
ただし、「責任を持たせる」といっても、労働災害が起こったときにその人に責任を負わせて懲戒や賠償に結びつかせてはいけません。
ここで述べていることはあくまで「単なる考え方」でしかないことをお間違えなく。
3 まとめ
労働安全衛生法第26条
労働者は、事業者が第20条から第25条まで(安全衛生のために事業者が講じる措置)及び前条第1項の規定(労働災害時の救護)に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。
以前の記事でも紹介した、労働安全衛生法の条文です。
従業員も安全確保のためにするべき実践があることが、法の条文にも明記されています。
決して他人事や会社任せでは済まされません。
- 会社は、規定がなくても、従業員の安全を確保する義務を負う。
- 従業員の疲労の蓄積や心理的負荷の軽減も配慮義務に含まれる。
- 従業員が働いている職場はすべて、安全配慮義務の範囲になる。
- 従業員も含めた会社の全員が責任をもって、安全確保に努める。
会社で重大な労働災害が発生したとき、「会社は安全配慮義務を果たしていたか」は大きな争点になります。
原因究明の結果、会社の責任が問われることは決して珍しいことではありません。
もともと安全衛生の取り組みは、決まった答えのない難問です。
どうしても、「状況に合わせ、適切に対処」という見解に行き着きます。
そんな問題であるので、最後にふたつ、共通する対策を。
- 対策に行き詰ったら、「従業員の責任」という視点で考えてみる。
- 職場の安全について、文章で書き出してみる。
まずはここから始めて、会社の安全配慮義務を果たしていってください。
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