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【2025-⑥】定額残業代は便利か。その「危険性」を点検してみよう

以前の「残業キャンセル」に関連して、同じように労働トラブルや争いに発展しがちな事項を今回も取り上げてみます。

 

「定額残業代」

 

労働紛争ではよく争点になります。

「定額残業代」とか「固定残業代」という名称で呼ばれることが多いですね。

 

職務手当、能力給、成果報酬など「残業」という単語が含まれていなくても、その報酬の目的が時間外労働の対価として設定されているなら、それは残業代です。

名称は、あまり重視されません。

 

本来、実際の時間外労働の時間数に合わせて支給される割増賃金を、時間を計算せずに初めから一定額を支給する方法の「定額残業代」。

 

会社としては、複雑な時間管理を省ける上に必要な対価を支払うことができる。

従業員としては、残業していなくてもまとまった報酬を受け取ることができる。

 

労使双方にとって利点が多いはずの定額残業代が、なぜ争いに発展してしまうのか。

争いに発展しない適切な方法はないのか。

 

今回はその視点で考えてみたいと思います。

 

 

目次

1 「有効」とされるには

2 種類と「危険度」

3 まとめ

 

 

1 「有効」とされるには

 

定額残業代(固定残業代)が有効と認められるためには、主に以下の点を備えていることが必要とされています。

 

  • 雇用契約、就業規則等で、「定額残業代は時間外労働の対価である」という旨が定められていること
  • 給与明細書等で、基本給と定額残業代が明確に区分されていて、定額残業代が「何時間分の対価であるか」が明記されていること
  • 定額残業代で想定されている時間数が、実際の時間外労働の時間数と乖離していないこと
  • 会社側から従業員側に対して、定額残業代の趣旨が説明されていること。または周知されていること

 

上記の要素が欠けていたり、不十分であると、その定額残業代の有効性に疑問符が付けられる、というのが、近年の判断です。

 

有効性が認められなくなると、会社は従業員に対して「残業代を支払っていない!」とみなされることになります。

 

あなたの会社ではいかがでしょう。

経営者と従業員。いずれの立場からも、点検してみてください。

意外にも、「不十分だった」ということが、あるかもしれませんよ。

 

 

2 種類と「危険度」

 

定額残業代の支払い方法には、いくつか種類があります。

 

いずれも有効な手段とされています。

けれど、「有用」であるかというと、少し差がある、というのが私の感覚です。

 

それぞれに利点と難点があり、会社の環境によっても向き不向きがあるでしょう。

 

ここでは、現在有効とされている支払い方法について、「労働紛争に発展する危険度」という尺度で評価をつけていきます。

今後の運用の、一つの参考に使ってください。

 

①「時間数支払方式」

危険度:低

  • 各自の固定額は、支給総額または基本給を元に計算して設定するので、根拠が明確で平等・公平。
  • 一人ひとりの固定額を計算する必要がある。

 

 

②「一律支払方式」

危険度:高

  • 固定額の計算が不要なので、導入・運用が容易。
  • 年齢を重ねるにつれて、固定額が割安になり、不均衡が生じるおそれも。

 

 

③「基本給組込方式」

危険度:中

  • 固定額は計算によって設定されるので、不均衡は生じない。
  • 就業規則、給与明細書の記載が不十分だと、「残業代未払い」とみなされる可能性。

 

以上、世の中で主に運用されていると思われる定額残業代の支払方式を三点挙げました。

各方式の詳細はそれぞれのページで説明しているので、用いられる計算方法や想定される展開などを知りたい方はそちらも確認してみてください。

 

そして、あなたの会社の支払い状況と見比べて、問題がないか点検してください。

もしかしたら、その支払い方法は法的要件を満たしていなくて、違法な状態かもしれません。

今まで一度も点検したことがない人は、要注意です。

 

 

3 まとめ

 

今回は、労働分野では話題に上がることの多い定額残業代について取り上げました。

 

会社の経営者はもちろん、働く側の人たちも興味がある話題ではないでしょうか。

実際に導入している会社も、少なくないと思います。

 

今回挙げた代表的な三つの方式に対して、私の主観で「紛争の危険度」として評価を付けました。

それぞれに利点と難点があり、「高」「中」「低」などの危険度を評価しましたが、

 

私はどれもおすすめしません。

 

時間外労働の割増賃金は、実際の時間数に基づいて計算され、支払われるのが基本です。

この基本が崩れている時点で、「紛争の危険度」というものは大なり小なり生じています。

「労務の対価」という計算がされていないわけですからね。

計算をしなければ、実際の労働と支給額は一致せず、それにより会社と従業員の意識にもズレが生じます。

 

「支払われていない」

「金額が少ない」

「自分の仕事はこんな低額ではない」

「こんなに低いなら残業しない」

 

こんな考えが湧き上がってきても、不思議ではありません。

 

今の世の中、働く人は自分の労働条件、特に賃金の待遇にはとても敏感です。

物価高が著しい現代では、生活苦の不満はすぐに賃金待遇に向きます。

 

今の賃金額に納得できず、しかも会社がその設定に対して十分な説明ができないとなれば、その不満がやがて争いのきっかけになり得るのです。

 

  • 定額残業代の制度を導入し、運用している会社は、その運用が適法・適切か、点検すること。
  • 今の支払方法が法的に不十分の場合は、すみやかに制度を改良して、紛争に発展する可能性を排除すること。
  • 制度を改良したいがその方法がわからない、すでに労使で争いが起きてしまっているという会社は、専門家の助言を受けて収束のための行動を取ること。

 

定額残業代は、その有効性が否定されるとその代償は会社にとって非常に多大です。

従業員に対しても、法的にも有効性を説明できるように、なるべく早いうちから制度面を整理しておきましょう。

 

あと、「定額残業代は危険!」だからと言って、今から単純に通常の支払方法に切り替えようとは思わないでください。

 

定額残業代の固定額は、従業員のみなさんにとっては賃金の一部です。

それが急に支給されなくなるのは、賃金の引き下げになり得ます。

今、定額残業代の制度を導入している会社は、廃止や減額は禁物。

これを忘れずに。

 

一度導入すると、不都合があってもなかなか取り消すことができない。

この制度は、そういった難しさをはらんでいる、諸刃の剣なのです。

 

関連ページ

【2025-⑥-1】時間数支払方式
【2025-⑥-2】一律支払方式
【2025-⑥-3】基本給組込方式

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