【2026-⑱】年度末恒例「駆け込み休暇」 なぜ我が社の伝統行事になっているのか
毎年3月は、多くの会社では年度末。
一年間の業績が確定する最後の月、ということで、各社とも多忙で大事な時期であると思います。
節目の多いそんな年度末は、「年次有給休暇の消滅時期」でもあります。
付与された有給休暇の権利は、付与から丸2年で消滅。
4月が年度始めの会社では、4月に付与された有給休暇がその2年後の3月末で消滅します。
そんな事情から、毎年3月になると全国各地でみられるのが「有給休暇の駆け込み取得」。
労働者の権利である有給休暇を消滅させまいと、消滅時効を迎えて切り捨てられてしまう日数の休暇を、時効直前の3月にまとめて取得する現象です。
あなたの会社でも、同じことは起きていませんか?
今回は、年度末に必ずと言っていいほど見られる、有給休暇の駆け込み取得について、その原因や影響、対策について考えてみます。
「会社の伝統」とか「年度末恒例」などの形容もあるくらいの根強い現象を、一度俯瞰してみましょう。
目次
1 根深い影響と原因
2 慣習に切り込む対策
3 まとめ
1 根深い影響と原因
私が労働組合執行委員だったときの会社でも、年度末(毎年3月)の有給休暇の駆け込み取得は各職場で盛んに発生していました。
職場によっては、誰が・いつ・どのくらい休むのか、休暇の取得予定を綿密に組み込み、業務への影響を最小限に抑える計画を立てていたぐらいです。
その熱量で業務の計画を立てていれば、年間を通じて休暇取得も進んだのではないか、ということは考えないようにしました。
意外に大きな悪影響
多忙な年度末に多くの職員が休暇で不在となると、年度内に進めたかった仕事が完結せず、会社全体の業績が計画に届かない、ということにもなり得ます。
会社の業績が目標未達となれば、賃上げや賞与支給額にも悪影響が及び、結局は働く人たちの待遇が低迷するという因果関係にあるので、単なる有給休暇取得の問題にとどまりません。
年度末という納期は変わらず、休暇により少なくなった人員で職場は何とかやりくり。
けれど人数は不足、休暇により必要な技能を持った人も不在となり、その期間中の仕事はどうしても品質が低下しがちです。
システムや電子化で省人化できない業種では、この影響は特に大きいでしょう。
少なくなった人員で仕事を進めなければならない職場の管理部門は、計画見直しや管理に繁忙となります。
本来の人員があれば計画表の線の引き直しなど、なかったはずの作業でした。
そんな繁忙の中からはそのうち、「今月で切り捨てになる有休があるのに、職場が休ませてくれない!」という怨嗟の声が立ち始めます。
休める人と、休めない人が目立ってくると、格差や不公平が痛感され、労使の対立だけでなく、チームの内紛にも。
有給休暇をふだん意識していない人でも、権利格差を目の当たりにすると不公平感が一気に募ることがあります。
すぐに思いつくだけでも、これだけの悪影響があります。
現場では、業務の繁忙以上の苦労があるのではないでしょうか。
昔からある原因
- 業務計画が多忙で、休んでいる暇がない。
- 自分にしかできない作業があり、職場を不在にできない。
- 自分が休む肩代わりを、同僚や上司に負担させたくない。
今も昔も、有給休暇の取得が進まない理由はこれらの意識でしょう。いずれも、会社や職場の状態が原因になっています。
「仕事が好き」「休んでもすることがない」は、個人の主観が大きいので理由から除外しました。
これらの原因が解消されれば、年間を通じて休暇の取得が進みます。
そして、これらの原因を改善することが、年度末の駆け込み取得防止につながります。
「それができれば苦労はしないのだ!」
確かに、なかなか解決しない、日本の労働慣習に基づく根深い原因です。
ただ、それは「駆け込み休暇で苦労するか」、「原因の解消で苦労するか」の違いだと思います。
会社の業績に直結する年度末の駆け込み休暇への対応で、会社は大きな苦労を抱えます。
であれば、有給休暇の取得促進に向けて苦労する方が、まだ健全だと思いませんか?
それで年度末を順調に終えられるのであれば、よほど苦労の甲斐があります。
私は、年度末の駆け込み休暇で悩んでいる会社は、苦労を投じる時期を変えることでその悩みを解消できると思っています。
駆け込み休暇が発生する根本の原因は、原因と向き合わずに苦労を後回しにする意識ではないでしょうか。
2 慣習に切り込む対策
「これを実施すれば解決!」という妙案がないのが、この問題の難しいところです。
すぐに着手できる方法もありますが、すぐに効果が出にくい、というのが私の経験です。
どれも地道で息の長い、当事者たちの真剣な意思にかかっている方法です。
すぐにできる対策
最も早く着手できる方法として、定期確認と取得促進があります。
定期的に(毎月初めなど)その職場の従業員の有給休暇の残日数を確認し、年度末までの期間に応じて休暇の取得を促すという手順です。
職場から休暇取得を促すことで、「自分が休んだらみんなに負担がかかる」と考えて休暇取得をためらっている人の背を押すことも期待できます。
「いつ休もうとオレの勝手だろ!」と反発があるかもしれませんが、職場の風土を変えるには絶えず促進するしかありません。
まずは、「いつ休んでも良い」と思わせて、安心してもらうことが目的です。
事業計画を立てやすい業種であれば、「計画付与」という方法も有効です。
法律上一定の制限はありますが、要件を満たしていれば、本人の意思にかかわりなく、会社の制度として休暇を取得「させる」ことができます。
春や夏、年末年始などの決まった時期に各自の有給休暇を充当し、カレンダーよりも長い連休を作る手法です。
長い連休ができるので、従業員からの反発が起きにくい利点があります。
労使協定の締結や、制度として明文化する必要があるなど、実施する前にいくつか作業を要します。
制度設計の助成金も設定されているので、負担軽減に活用してみてください。
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根気の要る対策
これぞまさに苦労のかけどころ。
長年の労働慣習から脱却し、新しい仕組みに進化する感覚で取り入れ、実践するような内容です。
当事者同士の強い意志を要する、長きにわたる取り組みになります。
まずは、属人化の解消を進めましょう。
「この人がいないと困る」という状態が休暇をためらわせます。
業務の属人化を解消し、その人が不在でも困らない技能を職場として持つのです。
「その職場の能力=その人の技能」
から、
「その職場の能力=その職場みんな」
への進化です。
交代人員の育成や仕事の標準化など、いかにも高いハードルがそびえていますが、これはいずれ、経営的にも必要になってくる取り組みです。
将来必要になる作業を始める良いきっかけを得た!と思って、これを機に進化の作業に取り掛かりましょう。
属人化の解消を進めるにはその前に、誰がどんな技能を有しているのか、その把握が欠かせません。「スキルマップ」の作成です。
スキルマップの作成は、ISOの力量管理では必須とされていますが、有給休暇の取得促進の対策ではそこまで精緻なものは必須ではありません。職場が有する技能を可視化できれば十分でしょう。
- どの仕事には何が必要で、誰が何をできて、何を補うべきか。
- 誰が何をできるようになれば、あの人が不在でも困らないか。
属人化脱却のための、地図になってくれます。
まずは、内容が複雑ではない作業から着手してみると良いでしょう。
くれぐれも、「スキルマップを作ること」を目的にしてはいけませんよ。
これらの取り組みは中長期に及びます。すぐには効果が出ないし、始めてしばらくは負担や費用ばかりがかかって、会社にとっては重荷に思えてくることでしょう。
取り組んでいるうちに目的を見失って迷走して、結局何も生み出されずに終わることもあり得ます。
会社の経営の課題解決にも通じる壮大な対策になるので、広い視界、深い視野、高い視座で臨んでください。
得るものはきっと大きいはずです。
3 まとめ
話が壮大になりましたが、目的は有給休暇の取得促進です。
年度末の駆け込み休暇は、単に「みんなが一斉に休暇を取る」という現象以上の悪影響を会社にもたらします。
各個人にとっては、「切り捨てられる有休の消化」という意識かもしれませんが、何人もの従業員が同じことをすれば、その影響は倍化して膨らみます。
そしてその悪影響は、会社の全員が被ることになります。
年度末の駆け込み休暇を防ぐための対策は、経営の改善にもつながります。
年間を通じて休みやすい環境を会社の中に作れれば、そこで働く人たちの満足度も高まるでしょう。
ここはひとつふたつ、苦労を背負って、会社の将来のための作業に取り掛かってみましょう。
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