【2025-⑥-3】基本給組込方式
「基本給組込方式」
危険度:中
「低」「高」があれば、「中」もあるわけです。
この方式は、固定額の決定は①「時間数支払方式」と同じで、賃金の内訳が異なります。給与明細書への記載が変わるのです。
固定額は計算によって求められるので、年齢や基本給額に対する不平等はありません。
ただし、就業規則や給与明細書への記載、従業員への周知と理解を慎重に整備しないと、思わぬ争いに発展する可能性があります。
不平等はないはずなのに、なぜ争いにつながるのか。
ひとつずつ見ていきましょう。
例
基本給
300,000円
(内残業代相当分56,970円)
上記の例は、給与明細書に記載する内容です。
「(内残業代相当分)」の金額は、【2025-⑥-1】で紹介した計算方法で導き出した額です。
【2025-⑥-1】と異なるのは、「支給しているのは基本給のみ」という点です。
「時間数支払方式」
基本給 + 定額残業代
「基本給組込方式」
基本給(内残業代相当分)
両方式は、途中までは同じ計算を進め、計算された残業代を基本給と分けずに合算します。
これにより、「賃金のすべてが基本給」になります。
会社の賃金規則によっては、賞与額、組合費、退職金などが、基本給を元に計算していることもあるでしょう。
その場合は、これらの金額の計算にも影響が及びます。
「基本給額を高く設定したい」という場合には有効といえる方式です。
この方式で気を付けたいのが、「周到な事前設定」です。
【2025-⑥】で紹介した「就業規則への定め」と「給与明細書への記載」を整備する必要があります。
もしこれらの事前設定を怠っていると、後々に大きな争いが発生する可能性があるのです。
例えば、給与明細書に(内残業代相当分)の記載がなく、全額が単純に「基本給」と記載されていたら。
それを受け取った人は「残業代が払われていない!」と思います。
その人が毎月、実際に時間外労働を行っていたら、「残業代を払ってほしい!」と求めてくることは、自然な展開でしょう。
会社が「残業代は支払い済みである」と反論しようにも、どこにも書いていなければ証明できません。
紛争の末、会社が未払いの割増賃金を支払うことになったら。
会社は「定額残業代が含まれた賃金額を元に割増賃金を計算することになる」のです。
そうなれば、支払額は本来の計算より大きく跳ね上がります。
一人に支払えば、支払いは他の全員に。
未払いが遡及されれば、支払いは長期間分に。
こうなったら、一度にいくらの資金が必要になるのでしょう。
賃金は正確な計算が大事。
だから複雑な計算式を用いて、金額を正確に導き出します。
それによって、平等と公平が保たれます。
しかし、それを終えても安心してはいけません。
就業規則や給与明細書という、賃金では「脇役」とも思いがちなこれらの要素をおろそかにすると、「巨額の支払い」という結果に結びつきます。
賃金の全額を基本給として支給する方式には、制度によっては利点があるでしょう。
この方式を運用するには、周到な事前準備が欠かせません。
ほんの小さな注意を怠れば、重大な結果につながる。
そんな性質のこの方式を、私は「止めはしない」という気持ちで評価しました。
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